セントジョンズワート

英名

St. John’s wort

学名

Hypericum perforatum L.

科目

オトギリソウ科

別名

セイヨウオトギリソウ、Hypericum

原産地

ヨーロッパから中央アジアー帯

利用部位

開花時の地上部

成分

●ジアントロン

hypericin
protohypericin
pseudoprotohypericin
pseudohypericin
cyclopseudohypericin

 

●アントラキノン
emodinanthorone

 

●タンニン
procyanidin
(+)-catechin
(-)-epicatechin

●フラボノイド

amentoflavone
biapigenin
quercetin
quercitrin
isoquercitrin
hyperoside
rutin

 

●その他
hyperforin
adhyperforin
γ-aminobutyric acid

図1 hypericin構造式

花言葉

『迷信』『秘密』『盲信』『信心』『恨み』『敵意』

見ごろ

6~8月

 直立性の多年草。木質で、先の丸い、細長い卵形の葉を対生につける。夏には直径約2cmの5弁の、明るい黄色の花を咲かせる。葉や花には無数の斑点があり、この斑点を指でこすると、赤い液が滲み出てくる。

~穏やかに神経系に作用する神秘的なハーブ~

 

 セントジョンズワートという名前は、イエス・キリストに洗礼を施したパブステマの聖ヨハネの名に由来するといわれる。古代ヨーロッパの人々は、葉や花に多く含まれるヒペリシンという蛍光物質が血のような赤色をしていることからも神聖な植物として考え、魔除けにも使用した。ヨーロッパでは伝統的に心の暗闇を照らす「サンシャインハーブ」として不眠症やうつ病に利用され、オリーブオイルに浸した赤い油は、傷や打撲傷などの外用薬としても使用された。また中国においては、セントジョンズワートは貫葉連翹(カンヨウレンギョウ)と呼ばれており、清熱、解毒、収斂、止血の効能があると中薬大辞典に記されている。喀血、吐血、腸風下血、外傷出血、リウマチによる骨痛、口や鼻の瘡、腫毒、やけど等に使用されていた。
 1996年にBritish Medical Journalに臨床試験の総説2)が発表されてからは、米国では、既存の抗うつ薬の代替として大ヒットのサプリメントとなり、またこの影響を受けて日本でも注目を浴びるようになった。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

作用

  • ●抗うつ作用
  • ●抗ウイルス作用
  • ●抗炎症作用

生理活性機能

● 神経伝達物質調節
 抗うつ作用のメカニズムとして、神経伝達物質のモノアミン類の濃度調節が推察されている。
 hypericinのモノアミン分解阻害(MAO、COMT阻害)の報告3)ではhypericinはカテコールアミンやセロトニンの分解を促すA型酵素に対し阻害活性が高いことが示されている。また、セロトニンの再取り込み阻害などによりセロトニン濃度を上げるという報告もされている4)
 1998年以降、hypericinの神経伝達物質の再取り込み阻害作用について、報告がなされている5)~7)。Kaehlerらは、ラットにhyperforin(10mg/kg, i.p.)を注入し、脳幹内のモノアミン類、グルタミン酸濃度の増加を確認している7)
 最近では、フラボノイドについても研究が進み、hyperosideの抗うつ活性8)、花部抽出物中のフラボノイドによるbenzodiazepine受容体の結合阻害9)等が報告されている。

 

● 抗ウイルス作用
 セントジョンズワートのフラボノイドには抗インフルエンザウイルス作用10)、抗ヘルペスウイルス作用が報告されている11)

 

● 抗炎症作用12)
 セントジョンズワートのオリーブオイル抽出物にて、抗炎症作用が認められ、ラウリル硫酸ナトリウム刺激による皮膚の紅斑指標を有意に改善させた。

臨床試験

〇 抗うつ作用
 セントジョンズワートは特に軽度から中程度のうつ症状(抑うつ気分、いらいら不眠または睡眠過剰、疲労感、絶望感など)を改善することが数多くの臨床試験で報告されている。
 1996年にそれまでに行われたセントジョンズワートの23の二重盲検をまとめた報告がされた2)。(表1)。

表1 セントジョンズワート抽出物の臨床試験

報告者   年

患者数

対照

総ヒペリシン/日
(mg)

抽出物/日
(mg)

投与期間
(週)

Halama 1991

50

偽薬

1.08

900

4

Hansgen 1994

72

偽薬

2.7

900

4

Hubner 1994

40

偽薬

2.7

900

4

Lehrl 1993

50

偽薬

1.08

900

4

Schmidt 1993

65

偽薬

1.08

900

6

Sommer 1994

105

偽薬

2.7

900

4

Harrer 1991

120

偽薬

0.75

500

6

Osterheider 1992

47

偽薬

0.75

500

8

Quandt 1993

88

偽薬

0.75

600

4

Schlich 1987

49

偽薬

0.5

350

4

Schmidt 1989

40

偽薬

0.75

500

4

Hoffmann 1979

60

偽薬

0.6

NA

6

Konig 1993

112

偽薬

1.00-2.00

500-1000

6

Reh 1992

50

偽薬

1

500

8

Ditzler 1994

60

偽薬

0.48

600

8

Harrer 1994

102

Maprotiline
75mg

2.7

900

4

Vorbach 1994

135

Imipramine
75mg

2.7

900

6

Kugler 1990

80

Bromazepam
6mg

0.75

500

4

Werth 1989

30

Imipramine
50mg

0.75

500

2

Bergmann1993

80

Amitriptyline
30mg

0.75

NA

6

Warnecke 1986

60

Diazepam
6mg

0.4

NA

12

Kniebel 1988

162

Amitriptyline
75-150mg

0.45-0.90

300-600

6

Steger 1985

100

Desipramine
100-150mg

0.60-0.90

400-600

6

 このうち15の試験では偽薬と、8の試験では既存の抗うつ剤または鎮静剤と効果を比較している。効果の評価にはハミルトンのうつ尺度などが用いられている(図2)。

図2 セントジョンズワート抽出物の臨床試験の結果

 またイミプラミンと比較した臨床試験についても報告されている13)。これらは軽度のうつ症状に有効であるという結果である。
 National Institutes of Health(NIH)で行われたセントジョンズワート抽出物の長期間にわたる臨床試験では、重度のうつ病に対しては効果がないと結論づけている14)

薬物相互作用

 2000年5月に厚生省医薬安全局安全対策課から「セントジョンズワートと医薬品との相互作用について」という通知が出された。セントジョンズワートを含有する製品を摂取することにより、薬物代謝酵素が誘導され、インジナビル(抗HIV薬)、ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、ワルファリン(血液凝固防止薬)、経口避妊薬などの効果が減少することが英国MCA及び米国FDAから報告され、これを受けて厚生省は、セントジョンズワート含有食品との併用により効果が減少するおそれの高い医薬品については、添付文書に本剤投与時はセントジョンズワート含有食品を摂取しないよう注意する旨を記載し、医薬品を服用する場合には本品の摂取を控えるなどの注意を表示するよう、関係営業者等に周知、指導した。また表2に記した医薬品についても、セントジョンズワート含有食品により影響を受ける可能性があることから、医薬品を服用する際にはセントジョンズワート含有食品を摂取しないことが望ましいとされている。

表2 セントジョンズワート含有食品との併用に関する注意を記載した医薬品

 

成分名薬効分類
硫酸インジナビルエタノール付加物 抗HlV薬
メシル酸サキナビル 抗HlV薬
メシル酸ネルフィナビル 抗HlV薬
リトナビル 抗HlV薬
アンプレナビル 抗HlV薬
エファビレンツ 抗HlV薬
ネビラピン 抗HlV薬
メシル酸デラビルジン 抗HlV薬
ウルファインカリウム 血液凝固防止薬
シクロスポリン 免疫抑制薬
タクロリムス水和物 免疫抑制薬
エチニルエストラジオール・ノルエチステロン 経口避妊薬
エチニルエストラジオール・レボノルゲストレル 経口避妊薬
エチニルエストラジオール・デソゲストレル 経口避妊薬
ジゴキシン 強心剤
ジギトキシン 強心剤
メチルジゴキシン 強心剤
テオフィリン 気管支拡張薬
アミノフィリン 気管支拡張薬
コリンテオフィリン 気管支拡張薬
フェニトイン、フェニトインナトリウム及びフェニトイン配合剤 抗てんかん薬
カルバマゼピン 抗てんかん薬
フェノバルビタール及びフェノバルビタールナトリウム 抗てんかん薬
ジソピラミド及びリン酸ジソピラミド 抗不整脈薬

安全性

COMMISSION E:approved herbとして収載されている。
流通品規格
 hypericin 0.3%以上
推奨量
 全hypericinとして1日0.2~1.0mg相当(COMMISSION E)

引用文献・ 参考文献

1)BoveG. M.,Lancet, 552, 1121(1998)

2)Klaus Linde et al.,Planta Medica313, 253(1996)

3)Suzuki O. et al.,Am J Chin Med.50, 272(1984)

4)M.C. Recio et al.,Arzneim. -Forsch./Drug Res.45,1145(1995)

5)Muller W. E. et al,Pharmacopsychiat , 31,16(1998)

6)Singer A. et al,J. Pharmacol. Exp. Ther. , 290(3),1363(1999)

7)Kaehler S.T. et al.,Neuroscience Letters262, 199(1999)

8)Butterweck V. et al.,Planta Medica66, 3(2000)

9)Baureithel K. H. et al.,Pharmaceutica Acta Helvetiae,72, 153(1997)

10)Derbentseva N. A. et al.,Mikrobiolohichnyi Zhurnal34(6),768(1972)

11)Ivana A. et al.,Molecules,17, 275(2012)

12)Baureithel K. H. et al.,Pharmaceutica Acta Helvetiae,72, 3(2000)

13)Woelk H.,British Medical Journal,321, 536(2000)

14)Hypericum Depression Trial Study Group.,JAMA., 287(14), 1807(2002)