ダイズ

英名

Soybean

学名

Glycine max (L.) Merr.

科目

マメ科

別名

Soja , Soya

原産地

東アジア、朝鮮半島南部、日本、台湾

利用部位

種子

成分

■イソフラボン配糖体
daidzin
genistin
glycitin

■サポニン
acetyl-soyasaponin A1~A6(グループA)
soyasaponin Ⅰ~Ⅴ(グループB)

■タンパク質
■オリゴ糖
■脂質
linoleic acid
oleic acid
palmitic acid

図1 大豆含有成分

花言葉

『必ず来る幸せ』『可能性は無限大』『親睦』

見ごろ

7~8月

 茎は直立し高さ30~90 cm。夏から秋に葉のつけ根から短い花枝がのび、2~35個の小花がつく。開花後長さ5 cmにのびた莢の中に2~4個の種子(豆)が入る。
 八百屋で枝葉付の枝豆を見れば一目瞭然。気候や土壌などの環境によって生育が左右されるために、各国で又地方別で栽培品種は異なっている。

~アジア食事文化圏発の健康素材~

 

 大豆の祖先種は東アジア(中国大陸北部、すなわちロシアの国境に接する地帯、朝鮮半島南部、日本および台湾)に広く自生するツルマメGlycine ussuriensis Regel et Mackである。ツルマメは古代から食糧とされ、これの改良によって極めて多くの栽培大豆が生れ、紀元前3世紀から紀元後7世紀にかけて、中国南部、朝鮮半島南部、日本および東南アジアへ伝えられた。
 日本には、弥生時代ごろに渡来した。「古事記」(712年)「日本書記」(720年)にその栽培の記載がある。ヨーロッパへは、日本より1000年以上遅れ、1712年オランダの博物学者 ケンペルによって紹介された。現在世界第一位の大豆生産国であるアメリカへはヨーロッパより更に遅れて1854年ペリーが日本から大豆の種子を持ちかえったのが始まりである。農商務省による試作研究は更に40年後の1896年にスタートしている。現在では世界の大豆生産量はアメリカが約60%を占めている。次いで2位ブラジル(約20%)そして中国(約10%)となっている。
 我々を取り囲む大豆関連製品を挙げてみる。きな粉、煮豆、モヤシ、枝豆、味噌、醤油、納豆、豆腐、豆乳、発酵豆腐(臭豆腐-中国、台湾)、凍豆腐(高野豆腐)、湯葉、大豆たんぱく、油脂、糖質などの関連製品。大豆は栄養的に非常に優れた食品であり、多彩な食品に加工される。欧米はコムギ食事文化圏として捕らえる事が出来るのに対して、日本、中国を中心にして東南アジアは独特の大豆食事文化圏を形成している。欧米に対してアジアでは、がんによる死亡率の低いことが疫学的に注目されている。この一因として大豆に多量に含まれるイソフラボン化合物が注目されるようになった。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

作用

  • ●骨粗鬆症予防
  • ●抗がん作用
  • ●更年期障害緩和
  • ●女性ホルモン様作用
  • ●抗酸化作用
  • ●血中脂質低下

生理活性機能

● 抗がん作用
 ■乳がんに対する作用 3) 4)
 乳腺発がん物質(PhIP)をラットに胃内投与(85 mg/kg、2週間で8回)することによって乳がんを誘発し、イソフラボン0.02%および0.04%の濃度で飼料に混入して投与した。PhIP投与開始後21週目に解剖し腫瘍の個数・体積を測定した。その結果腫瘍の個数はラット1匹あたりイソフラボン非投与群2.6±0.5個、0.02%投与群で2.2±0.4個、0.04%投与群で1.5±0.3個であり、有意な抑制効果が認められ、また腫瘍体積の減少も見られた。

 ■前立腺がんに対する作用 5)
 これまでイソフラボンと前立腺がんの予防とを直接結び付ける研究は、ほとんど行われていなかった 6)。1998年に2種類のイソフラボン(Genistein, Daidzein)およびそれぞれの配糖体 (Genistin, Daidzin)を用いて、ヒト前立腺がん由来細胞株であるLNCaPに対する細胞増殖抑制作用を比較検討した結果、イソフラボンは前立腺がん細胞増殖抑制作用を示した(図2)。

図2  ダイズイソフラボンのLNCaP増殖抑制作用 7)

 4種類のイソフラボンのうちではGenisteinが最も強力にLNCaPの増殖を抑制し、そのIC50値は40 μMであった。DaidzeinおよびGenisitinもやや弱いながらもLNCaPの増殖を抑制した。
 また、ラットに前立腺がんを誘発させ、GenisteinとDaidzeinの混合物を50週間飼料に混ぜて投与した。その結果、前立腺がんの発生率は対照群で51%、混合物100 ppm、400 ppm投与群でそれぞれ35%、29%であり、有意にがんの発生が抑制された 8)

 

● 女性ホルモン様作用 9)
 卵巣摘出ラットに対してDaidzin及びGenistinを投与し、子宮重量、腹部脂肪重量などを測定した(表1)。

表1 卵巣摘出ラットに対するDaidzin、Genistin、及びEstroneの
食事摂取量、体重、子宮重量、及び腹部脂肪重量への影響

Daidzin投与群では対照群に比べ、有意に子宮重量の減少が抑えられた。さらにDaidzin投与群は、体脂肪の指標とされる腹部脂肪の重量を有意に低下させた。Daidzinは脂質代謝に影響を及ぼしていることが強く示唆される。

 

● 骨量低下抑制作用 9)
 同様の実験で骨への影響をみた。

表2 卵巣摘出ラットに対するDaidzin、Genistin、及びEstroneの
骨成長、骨密度及び破断応力への影響

 Daidzin、Genistinは有意に骨密度の低下を抑制した。両イソフラボンは同様に破断応力(骨の強度)の低下を有意に抑制した。
 以上の結果からDaidzinとGenistinは骨粗鬆症に対して予防効果のあることが示された。

 

● 脂質代謝への影響
 サポニン10)には脂質の酸化抑制作用があり、マウスにおいてadriamycin誘導の過酸化脂質の上昇を顕著に抑制することが報告されている。
 また高脂肪食をラットに投与すると、軽度の肝障害を発症し、血清GOT、GPT値、また総コレステロール、中性脂肪値が上昇するが、同時にダイズサポニンを添加したラットではこれが抑えられることが報告されている 11) 12)

臨床試験

○ がん予防
 大豆及び関連商品(味噌、豆腐、納豆など)の摂取量の多いアジア諸国では、これをほとんど摂取しない欧米に比べ乳がん、前立腺がん、子宮がんによる死亡率が著しく少ないことが指摘されている 13)~17)
 この一因として、大豆に多量に含まれるイソフラボンが注目されている19) 20)。イソフラボンには抗酸化、抗エストロゲン作用が認められている21) ~ 27)
 アメリカにおける疫学調査では、豆腐を食べる人ほど乳がんの危険性が低いことがわかっている(図3)28)

図3 豆腐の摂取と乳がんの危険率の相関性

 これらの効果はアメリカのデザイナーフーズ計画でも取り上げられ、大豆製品をほとんど食べない欧米諸国も大豆イソフラボンの機能性に注目している。
 また、大豆の摂取によるがん予防の原因として、遺伝子発現に関係していると推測されている。乳がん初期の女性患者140名において一日51.6 gの大豆タンパク質を1週間から1ヶ月間まで摂取させて、いくつかの遺伝子発現量を分析した結果、がん細胞のアポトーシスに関係しているFGFR2などの遺伝子発現量が増加していることが示されている。29)

 

○ 更年期障害の軽減30)
 ほてり、のぼせ、発汗異常、動悸、めまい等の自律神経失調や不眠や不安、憂鬱などの精神神経的症状に、閉経後の女性のほとんどが悩まされている。
 日本人は欧米人に比べ更年期障害は比較的軽いといわれているが、大豆を多く食べる食習慣により、大豆イソフラボンの女性ホルモン様作用が閉経後の急激なエストロゲンの減少による不調を和らげていると考えられている。
 1995年、オーストリアで二重盲検によって実施された、更年期障害の軽減に関する報告がある。1週間に最低14回の「のぼせ」を訴える閉経後の女性(平均54才)47人を二群に分け、通常の食事に加え1日45 gの小麦粉または大豆粉を摂取させた。

図4 一日の「のぼせ」の回数

大豆粉摂取群で6週間後に約27%、12週間後に約42%と1日の「のぼせ」の回数が有意に減少した(図4)。

流通品規格

イソフラボンあるいはサポニン含量の規定が設けられる。
日本健康・栄養食品協会でも規定が設けられている。

推奨量

イソフラボンとして1日70~75 mg相当

安全性

アジアでの長い食経験により安全性は高いと考えられている。

引用文献・ 参考文献

1)植杉ら,食品工業, 40, 22, 1 (1997)

2)M. Shiraiwa et al.,Agric. Biol. Chem55,911 (1991)

3)太田ら.,第5回日本がん予防研究会(仙台)抄録集, 49 (1998)

4)Lamartiniere C. A.,Carcinogenesis (Oxford)16, 2833 (1995)

5)M. Onozawa et al.,Jpn. J. Clin. Oncol.28, 360 (1998)

6)Peterson G.et al.,Prostate., 22, 335 (1993)

7)M. Onozawa et al.,Jpn. J. Cancer Res.,90, 393 (1999)

8)小野沢ら.,第57回日本がん学会講演要旨集, 313 (1998)

9)H. Ishida et al.,Biol. Pharm. Bull., ,21, 62 (1998)

10)北川ら.,化学と生物,21, 224 (1983)

11)H. Ohominami et al.,Proc. Symp. Wakan Yaku,14157 (1981)

12)H. Tanizawa et al.,Proc. Symp. Wakan Yaku,15,119 (1982)

13)Adlercreutz H.et al.,Am. J. Clin. Nutr ,54, 1093 (1991)

14)Adlercreutz H.et al.,Lancet,342, 1209 (1993)

15)Carter H. B. et al.,Prostate.,16, 39 (1990)

16)Yatani R. et al.,J. Natl. Cancer Inst.,80 683 (1988)

17)Setchell K. D. R. et al.,Am. J. Clin. Nutr.,40, 569 (1984)

18)田島和雄.,がんの民族疫学,厚生省統計協会, 国民衛生の指標

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20)Fukutake M.et al,Food Chem. Toxicol.,34, 457 (1996)

21)Peterson G.,J. Nutr..,125, 784 (1995)

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23)Akiyama T.et al,J. Biol. Chem.,262, 5111 (1989)

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25)Wei H. et al.,Nutr. Cancer.,20, 1(1993)

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27)Folman Y.et al,J. Endocrinol.,44, 213 (1969)

28)Anna H. Wu.,Cancer Epidemiology.,5, 901 (1969)

29)Shike M.,J Natl Cancer Inst.,106, 9 (2014)

30)A. L. Murkies,Maturitas.,21, 189 (1995)