パッションフラワー

英名

Passion flower

学名

Passiflora incarnata L.

科目

トケイソウ科

別名

チャボトケイソウ、Wild passion flower、Maypop、Apricot vine

原産地

北米南東部

利用部位

地上部の全草

成分

● フラボノイド
isovitexin
orientin
apigenin
isoorientin
vitexin
kaempferol

● アルカロイド
harman
harmin
harmalin
harmol
harmalol

● その他
maltol
ethyl-maltol

図1 パッションフラワー含有成分

花言葉

『聖なる愛』『信じる心』『隠しもった情熱』『聖なる力』『奇抜』『受難』『恋の激しい苦しみ』『宗教的熱情』『狂信』

見ごろ

7~9月

 北米南東部原産の多年生のつる植物で、葉が深く3裂し長いまきひげをもち、卵形の果実をつける。花は複雑で花弁状の5枚のがくと、5枚の花弁をもち、一見して10枚の花弁をもつように見える。内部に糸状で多数の副花冠をもつ。5つの雄しべと、1本の雌しべをもち、花柱は3本に分かれ、先がふくらむ。観賞用にも栽培されるほか、果実は食用にされることもある。

~リラックスとくつろぎのためのハーブ~

 

 北米先住民の間で、緊張を和らげ、眠りを深める植物性のトランキライザーとして伝統的に使われてきたハーブである。複雑な形をした花がイエスキリストの磔刑の姿を象徴しているといわれ、キリストの受難の花(受難=PASSION)という名が付いた(コラム参照)。18世紀後半この地を訪れたヨーロッパの医師がかんしゃくに効くと述べたことから、19世紀には不眠の治療薬として広まった。現在では、イギリス、ドイツ、フランスなどの各国で医薬品として利用され、不眠、いらいら、ヒステリーなどの症状に精神を鎮めリラックスさせる目的や、歯痛、頭痛などに一時的な痛みの解放、神経痛や神経性の頻脈などに処方される。特に女性向けに生理痛、更年期障害、月経前症候群にも用いられる。喘息や胃けいれんなどの発作の予防を目的に使われることもある。
 単独ではなく、他のハーブと併用されることが多い。日本では花の形が時計の文字盤と針に似ているところからトケイソウという名が与えられた。

コラム

パッションフラワーは受難の花?

 

 パッションフラワーという英名は日本語に訳すと「受難の花」という意味になる。これは16世紀に南米に渡ったイエズス会の宣教師が、この花をはじめて見て、かつてフランチェスコ修道会の創立者、聖フランチェスコが夢に見たと伝えられるイエスキリストの十字架の花と信じ、名付けたという言い伝えがある。パッションフラワーの葉は槍、5本の雄しべはイエスが受けた5つの傷、3つに分かれた花柱は釘を、巻きひげはむちを象徴すると考えた為である。宣教師達はこれを先住民が改宗を待ち望んでいたしるしと信じ、熱意を持って布教を行い、多くの信者を得たという。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

作用

  • ● 鎮静作用
  • ● 抗不安、精神安定作用

生理活性機能

● 不安軽減効果
 マウスを用いた動物試験で鎮静効果・不安軽減効果が報告されている。
 活性成分は現在のところ明らかではない1)

 パッションフラワー抽出物の前投与により、マウスの行動に与える影響について評価を行ったところ、不安軽減効果、鎮静効果を示した。また、単独では睡眠誘導をおこさない少量の薬用量のpentobarbitalとパッションフラワー抽出物を併用することにより用量依存的にマウスの睡眠が誘導された2) 3)

図2 パッションフラワー抽出物によるマウス睡眠誘導効果(+pentobarbital併用)

パッションフラワー抽出物をマウスに10 mg/kg投与した。その後、マウスを「上昇を加えた迷路試験」を供し、パッションフラワーの抗不安作用を確認した4)

 

● 鎮咳作用
 パッションフラワー抽出物投与の後、亜硫酸ガスにより咳の症状をマウスにおこしたところ、パッションフラワー抽出物に鎮咳作用が見られた5)
 抗喘息作用を見るために、テンジクネズミに対してパッションフラワー抽出物を投与する実験が行われた。この結果、パッションフラワー抽出物はアセチルコリンクロライドにより誘発された気管支けいれんに有効であった6)

 

● 精力回復
 雄ラットに、慢性的アルコール投与あるいはニコチン投与を行うと、無精子症・不妊症・性欲減退の症状が見られる。パッションフラワー抽出物を雄ラットにアルコールなどと同時に投与することで、これらの症状が抑制された。これは、アロマターゼ阻害作用により、血中テストステロン濃度を高く維持されていたためと考えられる7)

 2歳雄ラットにパッションフラワー抽出物を投与したところ、精力回復に有効であった8)

臨床試験

〇 抗不安作用9)
 不安症と診断された36人を対象として二重盲検を行った。18人ずつの2グループに分け、パッションフラワー抽出物又は一般的なトランキライザーであるoxazepamを4週間投与した結果、2グループで同等の抗不安作用が見られた。
 また、歯科に対して不安症と診断された63人の患者を対象として単盲検を行った。歯周病手術を受ける前日及び当日の朝に、パッションフラワー抽出物又はプラセボを前投薬した結果、パッションフラワー抽出物グループにおいて抗不安作用を確認した 10)

 

流通品規格
 isovitexin含量の規定が設けられる。

推奨量
 地上部
 全草で1日4 ~ 8 g相当(COMMISSION E)

安全性

COMMISSION E:approved herbとして収載されている。
副作用は知られていない。

引用文献・ 参考文献

1)Speroni E et al.,Planta Medica54 (6), 488 (1988)

2)Kimura R. et al.,Chem Pharm Bull28 (9), 2570 (1980)

3)Soulimani R. et al.,J. Ethnopharmacology57 (1), 11 (1997)

4)Dhawan K. et al.,J. Ethnopharmacology78,2-3 ,165 (2001)

5)Dhawan K. et al.,Fitoterapia , 73,5, 397 (2002)

6)Dhawan K. et al.,Phytother Res.., 17, 7, 821 (2003)

7)Dhawan K. et al.,Life Sci.71 , 26, 3059 (2002)

8)Dhawan K. et al.,J. Med. Food,5, 1, 43 (2002)

9)Akhondzadeh S. et al.,J. Clin. Pharm. Ther.,26, 5, 363 (2001)

10)Kaviani N. et al.,J. Dent. Shiraz. Univ. Med. Scien.,14 (2), 68 (2013)