カンゾウ

英名

Licorice

学名

Glycyrrhiza glabra L, G. uralensis F., G. inflata Batt.

科目

マメ科

別名

甘草、リコリス、Gancao、Liquorice

原産地

中国西部、シベリア南部、中近東、ヨーロッパ南部

利用部位

根、ストロン

成分

■トリテルペノイド
glycyrrhizic acid (glycyrrhetinic acid diglucuronide)
24-hydroxy glcyrrhetinic acid diglucuronide10)
liquiritinic acid diglucuronide10)
glabrolide diglucronide10)
※glycyrrhizic acidの配糖体部分がglucuronic acidとgalactuionic acidのものも確認されている11)

図1 カンゾウ中トリテルペノイドとHPLCクロマトグラム10)

■フラボノイド
liquiritin
liquiritigenin
licoricidin
formonetin
licoricone

■カルコン
isoliquiritin
isoliquiritigenin
licochalcone A
licochalcone B

■多糖
 Glycyrrhizin UA, UB, UC

図2 カンゾウ中フラボノイド

花言葉

『悲しみを忘れる』『順応』

見ごろ

5~6月

 中国の東北部、北部、西北部、さらに蒙古、シベリアなどに広く分布する多年生草本。日本では自生しない。大きな根茎と四方に地下茎を走出し、主根は長く、1~2 mに達する。茎は直立し、分枝し、羽状の複葉をつける。夏に青~紫色の穂状の花序をつけ、秋には湾曲したさやをつける。
 市場においては甘草の生産地による呼称が用いられている(図3)。現在のところ、東北甘草は主にG. uralensis F.、西北甘草はG. glabra L. var glandulifera RED. et Herb、新彊甘草はG. inflate Batt.を基原とすると考えられている。

図3 甘草生産地

~古くて新しいハーブ~

 

 カンゾウは人類が手にした薬草のうち最も歴史が古く、繁用されているもののひとつである。紀元前5世紀頃に編集されたというギリシアのヒポクラテスの全集にすでにその記載があり、その後も洋の東西を問わず、世界中の薬典に登場する。
 主成分はトリテルペン系サポニンのグリチルリチンである。グリチルリチンは砂糖の150~300倍もの甘さを持つ甘味物質であり、これにより中国では甘い草、甘草という名が付けられている。
 甘草は、漢方処方中最もよく用いられている生薬であり、「傷寒論」(紀元前200年頃)では113処方中80処方に、現在の繁用漢方処方の212処方中にも約7割の驚くべき割り合いで処方されている。しかしながらその薬効については、古くから諸薬を和合し解毒の効があるように記述されており、単に矯味、緩和的なものと考えられがちであった。その薬効に脚光があたったのは、1946年にオランダの医師Reversにより消化性胃潰瘍に効果的という臨床報告がされてからである6)。研究が進むにつれて、興味深い薬理作用が次々と報告されるようになった。1980年代後半には、ほとんど有効は薬物がなかったエイズ治療薬に甘草が有効との報告があり、マスコミでも大きな注目を浴びた7)
 現在では、かぜ薬から慢性肝炎、抗アレルギーの医薬品、またドリンク剤などにも広く利用されている。甘味料としての使用も多く、塩慣れ効果を利用して醤油や漬け物、水産加工食品などに使用されている。化粧品や医薬部外品にもその成分が利用されており、日常生活に驚くほど広く浸透している。
 我が国には奈良時代に唐代の文化とともに渡来した。多量の良質な甘草が、ほかの漢薬とともに今もなお、奈良正倉院の宝庫に保存されており8)、2003年にこの甘草がG. uralensisであると明らかにされた9)

コラム

 甘草には多くの類縁植物がありますが、有効成分のグリチルリチンを含有し、薬用にされるのはその中の数種類です。同様に多くの仲間をもつ植物を、薬用とする場合に、正しい種類の植物を選ぶのは大変重要なことです。
 従来こうした植物の種の鑑定には、葉の形や、花の形、根の断面図などの見かけを比較する形態からの試みと、含有成分を比較する化学的確認試験が行われています。甘草の種の鑑定も、根の断面の形態の比較や、グリチルリチン類縁物質のマイナー成分の比較(本文参照)、皮に含まれるフラボノイド類の成分比較29)など、さまざまな方法が試みられています。
 近年では、人間の犯罪捜査や親子鑑定にも使われることのあるDNA鑑定が、植物の鑑定にも使えないか、という試みも行われています30)31)。植物の種に特定の遺伝子そのもの、DNAによる鑑定が可能ならば、植物の生育条件や、保存状態に左右されず、決定的な証拠となります。また、少量のサンプルで鑑定が行えるという利点があります。

図4 甘草のRAPDパターン

 各植物のゲノムDNAを鋳型とし、PCR(Polymerase Chain Reaction)でDNAを増幅した。各植物に同じ長さのDNAが増幅された場合同じ位置にバンドが検出される。
 この方法で使用しているゲノムDNAの量はわずか10 ng程度である。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

生理活性機能

 戦後、甘草が消化性潰瘍に有効との報告が続き、注目をあびた6),12)。この有効成分としてグリチルリチンと、フラボノイドなどそれ以外の成分の作用が検討されている13)
 グリチルリチンには、副腎皮質より分泌される鉱質コルチコイドであるアルドステロン様作用があり、これにより極めて多彩な生理活性を示す。

 

 これまでに次に示すような実に多彩な薬理作用が報告されている。
●鉱質コルチコイド様作用14)
●糖質コルチコイド様作用15)
●エストロゲン様作用16)
●テストステロン産生阻害作用17)
●鎮咳作用18)
●抗炎症作用19)
●抗アレルギー作用20),21)
●解毒作用22)
●高脂血症改善作用23)
●実験的肝障害予防または改善効果24)
●抗ウィルス作用25)
●インターフェロン誘起作用26)
●抗う蝕作用27)
●発がんプロモーター阻害作用28)

 この他に多糖類のglycyrrhizan UA, UB, UCには細網内皮系賦活活性が認められており、免疫賦活剤としても注目される。29)

安全性

COMMISSION E:approved herbとして収載されている。
大量投与・継続投与により偽アルドステロン症が生じる1)~5)。低カリウム血症、浮腫、高血圧、ミオパシーなどである。 

引用文献・ 参考文献

1)昭和53年2月13日厚生省薬務局通知薬発158号 各都道府県知事あて「グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取り扱いについて」

2)Molhuysen J. A. et al.,Lancet.381, (1950)

3)Harders H.,Munch. Med. Wschr,95, 580 (1953)

4)Conn J. W. et al.,J. Am. med. Assoc,205, 492 (1968)

5)Epstein M.T. et al.,Brit. Med. J., 488 (1977)

6)Revers F. E.,Ned. Tijdschr. Geneesk., 90, 135 (1946)

7)伊藤正彦ら,医学の歩み141 , 427 (1987)

8)朝比奈泰彦編,正倉院薬物,281-287, 植物文献刊行会、東京 (1955)

9)Shibata S.,Proc.JapanAcad.,79,176 (2003)

10)中村英雄ら,日本薬学会100年会要旨集,p258,(1980)

11)常磐植物化学研究所,特開昭63-267795

12)Schulz E. et al.,Dtsch. Med. Wschr.,76, 988 (1951)

13)Takagi K.et al.,Arzneim. Forsch. Drug Res.,17, 1544 (1967)

14)Louis L. H. et al.,J. Lab. Clin. Med.,47, 20 (1956)

15)Kumagai A. et al.,Endocrinol. Metab.,4, 17 (1957)

16)Kumagai A. et al.,Endocrinol. Metab.,14, 34 (1967)

17)Sakamoto K.,Endocrinol. Japan,35, 333 (1988)

18)Anderson D.,J. Pharm. Pharmacol.,13, 396 (1961)

19)Finney R. S. H. et al.,Biochem. Pharmacol.,14, 1277 (1965)

20)三宅健夫,アレルギー,10, 131 (1961)

21)Saeedi M. et al.,J. Dermatolog Treat.,Sep; 14(3), 153-7 (2003)

22)三好英夫,日新医学,39, 358(1952)

23)Yamamoto M. et al.,Endcrinol.Japan.,17, 399(1970)

24)Shibayama Y.,Exptl.Mol.Pathol.,51, 48(1989)

25)Pompei R. et al.,Nature,281, 689(1979)

26)Abe N. et al.,Microbiol.Immunol.,26, 535(1982)

27)Segal R. et al.,J.Pharm.Sci.,74, 79(1985)

28)Nishino H. et al.,Japan J.Cancer Res.,77, 33(1986)

29)N.Shimizu et al.,Chem.Pharm.Bull.,38, 3069(1990)

30)Shibata S.,Chem.Pharm.Bull.,17, 729(1969)

31)斉藤和季ら現代東洋医学.,15, 15,122(1994)

32)M.Yamazaki et al.,Naturel Medicines.,49, 488(1995)