イチョウ

英名

Ginkgo

学名

Ginkgo Biloba L.

科目

イチョウ科

別名

公孫樹、鴨脚樹、Maidenhair tree

原産地

中国、日本

利用部位

成分

■フラボノイド
 kaempferol-3-O-glucoside
 kaempferol-7-O-glucoside
 kaempferol-3-O-rutinoside
 kaempferol-3-O-[α-rhamnosyl-(1→2)-α-rhamnosyl(1→6)]-β-glucoside
 kaempferol-3-O-α-(6”’-p-coumaroylglucosyl)-β-1,2-rhamnoside
 quercetin-3-O-glucoside
 quercetin-3-O-rhamnoside
 quercetin-3-O-rutinoside(rutin)
 quercetin-3-O-[α-rhamnosyl-(1→2)-α-rhamnosyl(1→6)]-β-glucoside
 quercetin-3-O-α-(6”’-p-coumaroylglucosyl)-β-1,2-rhamnoside
 isorhamnetin-3-O-glucoside
 isorhamnetin-3-O-rutinoside

図1 イチョウ葉抽出物中のフラボノイド配糖体

■テルペノイド

 bilobalide
 ginkgolide A
 ginkgolide B
 ginkgolide C
 ginkgolide J

図2 イチョウ葉抽出物中のテルペンラクトン

図3 ギンコール酸

 ギンコール酸(ginkgolic acid)(図3)等のアルキルフェノールは、イチョウの種子の外皮に多く含まれ、接触皮膚炎やアレルギーを起こす2)。この成分は葉にも0.1~1.0%含有されるので3)、食品として利用する場合は除去する必要がある。

花言葉

『荘厳』『長寿』『鎮魂』

見ごろ

4~5月(開花)、10~12月(黄葉)

 裸子植物の高木。時に高さ30m、周囲10mにも達する巨木となる。扇型の独特の形の葉は、秋には黄色く色づき、落葉する。雌雄異株で、雌株には一見果実のような、多肉質の種皮に包まれた種子がつく。これを土の中に埋め、独特の異臭を放つ外種皮を腐らせて除いたのが「ギンナン」である。
 一属一種の珍しい単独種で、地球上に2億5千万年前から存在し、「生きた化石」ともいわれる。現在自然に生育しているのは中国東部の浙江省の山地のみとされ中国原産とされるが、日本にも原産し、その後いったん絶滅したという説もある。ヨーロッパには研究者により日本または中国産の種子が持ち込まれた。現在は栽培によって世界中に分布しており、イチョウ葉抽出物の原料として大規模にプランテーションが行われている。
 明治29(1896)年、当時帝国大学の図画・博物学の教師であった平瀬作五郎は、イチョウに有性生殖細胞がべん毛を持って運動する精子を発見した。当時コケ類などの隠花植物においては精子の存在が発見されていたが、顕花植物における発見は世界でははじめてであり、世界の植物学者を驚かせた。この発見は明治維新後の欧米の近代科学を学んだ日本学問の成果として象徴的であり、1996年には東京大学でイチョウ精子発見100周年を記念したシンポジウムが開催された1)

~欧州では医薬品の実績~

 

  イチョウは、2億5千万年の地球の変化に耐えて今日まで生き残ってきた非常に生命力の強い植物で、原爆後の被災地の広島で最初に芽吹いたのもイチョウの樹だという。薬用としての利用は、日本産の葉をもとにドイツ・フランスで研究が進められたのがきっかけで、戦後急速に開発が進んだ。フランス、ドイツで医薬品として発売されて以来、ヨーロッパでは売上トップを争う医薬品として販売されている(表1)。

 
表1  ヨーロッパでのイチョウ葉抽出物医薬品の適応症

  ●脳循環不全それに伴う機能障害
(めまい・耳鳴り・頭痛・記憶力低下・不安感を伴う気分不安定)

●脳神経障害、脳外傷の後遺症
●末梢循環障害による間欠性披行、毛細血管循環障害
(レイノー病、末端感覚異常、末梢性チアノーゼ、毛細血管衰弱)
●循環器からくる感覚疾患障害、特に眼科および耳鼻咽喉科の疾患

 

 イチョウは、葉そのものを伝統的に薬用として利用していたのではなく、それが抽出・精製された抽出物ではじめて、効果が実証されている点で他のハープと異なる。
 イチョウ葉抽出物は、緑葉を抽出し、数回の精製工程を経て有害成分や不溶成分を取り除き、濃縮される。イチョウの種子「ギンナン」の外種皮は、触れると皮膚炎を引き起こす成分を含んでいるが、この有害成分は葉にも含まれているので、除去する工程は重要である。
 COMMISSION Eでは、イチョウ葉に関する項目は2種類載せられている。一つはフラボノイド配糖体、テルペンラクトンの含量が示され、ギンコール酸の除かれた抽出物、もう一つは含量規定のない葉、または抽出物であり、後者はギンコール酸含量によっては危険とのコメントが記されている。現在、薬理効果が証明され、臨床応用されているのはすべて前者の含量規格の抽出物である。
 高齢化社会においてイチョウ葉抽出物の機能性はますます社会に注目され、各界研究者と医学界からも大きな注目を浴びている。

流通品規格

・総フラボノイド配糖体 24%以上
・テルペンラクトン 6%以上
・ginkgolic acid 5ppm以下
・乾燥葉:抽出物 35~67:1(平均 50:1)
日本健康・栄養食品協会でも同様の規定を設けている。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

作用

  • ●抗酸化作用
  • ●血流改善作用
  • ●血流増加作用
  • ●PAF阻害作用
  • ●虚血状態に対する抵抗力増加
  • ●精神安定

生理活性機能

● 血小板活性化因子(PAF)の抑制
 PAFは血管内皮細胞、白血球、マクロファージに存在し、これらの細胞が刺激を受けたときに、細胞膜から遊離される物質で、血小板凝集、好中球からのアレルギー起因物質の放出、活性酸素の放出、微小血管の透過性の亢進などを誘発し、血栓形成、アレルギー反応、炎症、気管支収縮、脳循環系の機能障害を引き起こす情報伝達物質として働く。イチョウ葉抽出物は特異的なPAFの阻害物質であることが確認されている。特にギンコライドB(ginkgolide B)に強い抑制活性が認められている4)

● LDL酸化抑制
 イチョウ葉抽出物はLDLの酸化反応を抑制することが報告されており、動脈硬化に対する効果も期待される5)

● 抗酸化作用
 活性酸素は脂質過酸化、血小板凝集、炎症反応などを引き起こし、その結果、神経細胞や組織の損傷を引き起こすため、生活習仮病や老化の原因と考えられている。イチョウ葉抽出は種々酸化ストレスによる血小板凝集に対して特異的な阻害効果のあることが確かめられている(図4)6)
また、ラットで虚血再灌流後に増加する脳組織内の過酸化脂質の増加を有意に抑制するとや7)、炎症細胞からの活性酸素の産生を抑制すること8)が報告されている。

図4 イチョウ葉抽出物による酸化ストレス誘導血小板凝集の抑制6)

イチョウ葉抽出物は、用量依存的に脂質過酸化誘起剤(t-butylhydroperoxideまたはH2O2とFe2+との併用)で惹起される血小板凝集を阻害した。

 

● 血液循環改善
 イチョウ葉抽出物はウサギ大動脈内皮からのプロスタサイクリンと内皮細胞由来弛緩因子(EDRF)の遊離を刺激する9)。プロスタサイクリンは強い血小板凝集抑制作用と、血管拡張作用があり、血流増加をもたらす。また同時に、カテコールアミンの遊離促進や分解阻害により血管壁の緊張を維持する働きもある。

 

● 脳代謝の改善
 イチョウ葉抽出物は虚血マウスまたはラットにおいてグルコースの消費を増加させ、脳代謝を改善する10)

 

● 神経伝達物質に対する効果
 ムスカリンレセプター(アセチルコリンの受容体のサブタイプの一つ)結合能の低下は、年齢と相関する認識能障害と関連していると考られている。
 イチョウ葉抽出物は中枢神経系において老齢ラットの海馬のムスカリンレセプター結合能を増加させることが報告されている11)

臨床試験

○ 脳機能障害の改善
 イチョウ葉抽出物は脳血管障害、脳循環不全による機能障害(めまい、耳鳴り、頭痛)を改善する。これらについては数多くの臨床試験でその効果が確認されている12), 13)

図5 総老化スコア(SCAG)の変化

図6 頭痛スコア(左)、耳鳴りスコア(右)の変化

1988年ドイツでは脳血管障害の外来患者40人を対照とする3ヶ月の二重盲検が行われた。イチョウ葉抽出物投与群では総老化スコア(SCAG)の有意な低下が見られ、特に頭痛、耳鳴り、めまいの項目について顕著な改善効果が報告されている14)
 加えて、慢性的な耳鳴患者に対してもイチョウ葉抽出物は効果があることが示されている15)

 

○ 認知症の改善
 認知症には大きく二つに分けてアルツハイマー型と脳血管型があり、特にアルツハイマー型の場合、原因が解明されていないため、治療が困難とされている。
 イチョウ葉抽出物は脳血管型、アルツハイマー型、両方の認知症の症状を改善することが数多くの臨床試験で報告されている16)
 総勢327人の軽度から中程皮のアルツハイマー症、および多発梗塞性認知症患者を対象として、52週間にわたりイチョウ葉抽出物120mg/day投与群と偽薬群とにわけて与えられた17)。ADAS、GERRIなどの評価尺度による6ヶ月から1年の観察の結果、イチョウ葉抽出物は安全で、認知症患者の認識機能、社会的機能を安定させ、改善させることが示された(図8)。
 また別の試験においても、イチョウ葉エキスを軽度から中程度の認知症患者に摂取させた際に認知症症状が改善することが報告されている18)

図7 ADASとGERRlにおけるスコアの変化

ADAS(Alzheimers Disease Assessment Scale)、GERRl(Geriatric Evaluation by Relatives Rating Instrument)試験終了時(52週)にはイチョウ棄抽出物(120mg/day)治療群で偽薬群に比較してADASで1.4点、GERRlで0.14点の改善が見られた。*p≦0.05 **p≦0.01

 

○ うつ症状の改善
 脳障害、認知症の症状の一つとして、不安、精神不安定などのうつ症状があるが、イチョウ葉抽出物はそれらを改善した19), 20)

 

○ 記憶改善
 イチョウ葉抽出物は脳血管不全、認知症患者の注意力、記憶力低下の改善をする。また、健常人に対する大量投与実験で、脳波のα波を増加させ、記憶力を増大させる結果が得られている21)。これとは別の試験で、健常者に対してイチョウ葉抽出物投与で情報処理作業能力、記憶、実行処理能力向上が確認された。22)

 

○ 血糖値上昇抑制作用
 イチョウ葉抽出物は動物試験において血糖値上昇抑制作用が知られている。インスリン非依存型糖尿病患者に対する試験において、インスリンが関与している糖代謝の活性化と血糖値減少がみられた23)

 

○ 末梢循環障害の改善
 イチョウ葉抽出物はヨーロッパにおいて間欠性跛行の治療に用いられる。間欠性跛行とは血液循環の不全のため、下肢骨格筋への血液循環が滞り、しびれて歩行が困難になる病気である。
 ドイツで行われた末梢循環不全による間欠性跛行患者79名を対象とした二重盲検の結果、6ヶ月間の投与で、イチョウ葉抽出物投与群で全歩行距離、痛みを感じるまでの歩行距離の有意な延長が見られた(図9)24)

図8 間欠性跛行におけるイチョウ葉抽出物の効果

○ 冷え性の改善
 29人の冷え性の女性に対して行われた試験において、イチョウ葉抽出物は被験者全員に対して有効であり、冬季および夏季のクーラー病に対して効果があると報告された25)

安全性

COMMISSION E:抽出物の規格品がapproved herbとして収載されている。
ごくまれに軽度の胃腸障害、頭痛、アレルギー性皮膚炎が報告されている。
規格品以外の抽出物、原葉は、効果が認められておらず、(unapproved herb)ギンコール酸により胃腸障害やアレルギーを起こす可能性があり危険である。
2002年11月国民生活センターより、「イチョウ葉食品の安全性」に関してアレルギー物質であるギンコール酸の含有量の問題が取り上げられた。
規格化されたイチョウ葉抽出物以外の摂取は控えた方がよい。

推奨量
 1日120mg、症状に応じて240mgまで増量することもある。

医薬品相互作用量
 医薬品との相互作用に関しては、アスピリン26)、ワルファリン27)、などと併用した後に出血が認められることがある。さらに、利尿剤を併用した場合に血圧上昇28)、抗うつ剤(トラゾン)を併用したアルツハイマー患者において、昏睡状態になった例が報告されている29)
 イチョウ葉抽出物は肝臓における薬物代謝酵素を活性化し、医薬品の効果を減弱させる可能性が動物実験で示されている。30)~33)

引用文献・ 参考文献

1)東京大学理学部付属植物園編,イチョウ、小石川植物園後援会発行(1996)

2)指田豊,医薬の門, 24(11,12), 250(1984)

3)(株)常磐植物化学研究所,

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