マオウ

英名

Ephedra

学名

Ephedra sinica Stapf

科目

マオウ科

別名

原産地

中国の砂漠や乾燥した高地、遼寧,河北,河南,山西,陜西の各省、及び、内蒙古などに自生する

利用部位

地上茎

成分

乾燥したマオウは総アルカロイドとして0.3~1.5% 含有し、局方品は0.7%以上を規定している。

■主アルカロイド

エフェドリン

(-)-ephedrine

プソイドエフェドリン

(+)-pseudoephedrine

■副アルカロイド

ノルエフェドリン

(-)-norephedrine

ノルプソイドエフェドリン

(+)-norpseudoephedrine

メチルエフェドリン

(-)-N-methylephedrine

メチルプソイドエフェドリン

(+)-N-methylpseudoephedrine

マオコニン

maokonine

エフェドロキサン

ephedroxane

■その他

タンニン

(+)カテキン、

(+)-catechin

(-)エピカテキン、

(-)-epicatechin

(-)ガロカテキン、

(-)-gallocatechin

(-)エピガロカテキン

(-)-epigallocatechin

及びこれらの二量体、 三量体。

花言葉

見ごろ

 マオウ Ephedra sinicaはマツ、スギ等と同じ裸子植物の仲間でマオウ科 Ephedraceaeに属しているが、この科にはEphedra属 ただ一属だけである。砂漠や乾燥した山地に生え、多年生の草本状の小低木で樹高 30~70cm、茎は木質で外観はトクサに似ている。葉は退化して節に小さな鱗片状となっている。市場品はE.sinicaを基源とするものが主で、中国の遼寧、陜西、内蒙古からの輸入品である。
 E.sinica以外の同属植物としてE.equisetinaは中国の河北、山西、内蒙古、陝西、甘粛、新彊、及びモンゴルに分布する。木質茎は直立し高さはE.sinicaより高く80cm~1.5mになり木質茎から草質茎を叢生する。この他中国にはE.distachyaE.intermediaが自生する。パキスタンにはE.nebrodensis TINEO var.procera,E.gerardiana WALLICH var.wallichiiなどが分布する。これらの根を集め乾燥したものを「麻黄根」と言う。この植物の興味ある点は、地上の草質茎と根の作用が全く逆なことである。即ち、地上茎は発刊、血圧上昇作用があるのに対して、根は止汗、血圧降下作用がある。

~せきを鎮める砂漠のハーブ~

 

 マオウは漢方で重要な生薬のひとつで「麻黄湯」、「麻杏甘石湯」などの主薬はマオウであり、一般によく知られている「葛根湯」にもマオウが使われ、咳、痰を伴う症状には必ずといってよいくらい配合されている。
 中国最古の薬物書である「神農本草経」(500年刊)には中品(ほん)に含まれている。漢方医学の原典であり、後漢(25~220年)の時代、張 仲景によって著されたといわれる「傷寒論」にもマオウを用いた処方が14種、収載されている。江戸時代の医者 吉益東洞は個々の生薬の薬効を追求した書物「薬徴」(1771年)の中で、マオウ固有の薬効として鎮咳作用をあげている。このような東洋における古くからのマオウの位置づけを念頭に置き、明治時代長井長義が世界に先駆けてマオウからエフェドリンを結晶として単離し、構造を決定した業績を振り返ってみたい。
長井は1871年(明治4年)27才で政府派遣第1回の留学生11人の中の1人としてドイツへ渡った。ベルリン大学で有機化学の世界的権威であるホフマン教授のもとで研究を続け、1879年(明治12年)35才でホフマン教授の助手になった。
 1884年(明治17年)40才で帰国し、東京帝国大学の教授となり、理学部の化学科、医学部薬学科で薬化学を担当した。長井は我が国の近代有機化学の開拓者であり、1880年(明治13年)に創立された日本薬学会の初代の会頭にもなっている。東大教授就任の翌年1885年(明治18年)41才で長井はマオウからエフェドリンを発見し、その構造を決めた。東京渋谷にある日本薬学会の長井記念館には長井の胸像がありイタリアから輸入された美しい大理石の壁面で囲まれている。この壁面に長井が得たエフェドリンの結晶の元素分析値などを基にして考えられる、全9種のエフェドリンの構造式が長井の実験ノ-トから写され彫り込まれている。
 当時の医学界は明治政府の近代化の方針にそって、欧米先進国の学問の吸収が急務であった。中国から学び、日本で成長した漢方医学を捨てて、西洋医学、近代有機化学を学び取る時代であった。
 先に述べたように、マオウは東洋で鎮咳作用をもつ重要な生薬であることを知る者はごく少数の漢方医のみであった。エフェドリンがマオウの重要な鎮咳成分であるとわかるのは、長井の発見から約40年後のことである。1924年(大正13年)北京連合医科大学の陳 克恢とC.F.Schmidtにより、エフェドリンが気管支喘息に効果のあることが発表された。
 マオウについて長井長義と陳 克恢、この二人のアジア人の研究業績は全世界に知れ渡り、西洋医学が東洋医学を見直すきっかけの一つになり、喘息の特効薬としてエフェドリンとその原植物 マオウが世界の脚光をあびることになった。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

生理活性機能

マオウエキスの薬理効果は総アルカロイドの54.0%を占めるエフェドリンと26.3%を占めるプソイドエフェドリンによって代表される。1)

 

● エフェドリン
 交感神経興奮作用を示し2)、心拍数、心拍出量の増加、血管収縮、血圧上昇3)、気管支拡張4)等の作用を有する。
 又、中枢神経系への作用として、中枢興奮5)、鎮咳6)、鎮痛、脊髄興奮作用などが知られている。
 その他、気道分泌亢進8)、発汗9)、抗炎症10)、血糖降下11)などの各作用も報告されている。

 

● プソイドエフェドリン
 薬理作用はエフェドリンと類似しているが、一般に作用は緩和である。

 

● 麻黄根エキス
 エフェドリンと逆の薬理作用をもち、血圧降下、呼吸興奮、末梢血管拡張などの各作用が報告されている。12)

安全性

マオウは交感神経興奮作用があり、専門家の指導のもとに使う。
次の諸症に 使用をさけること。狭心症、緑内障、高血圧 前立腺肥大。 甲状腺肥大等。
副作用として動悸、頻脈,振戦 不眠,興奮などを起すことがある。
COMMISION E:approved herbとして収載
 副作用:不眠症、過敏症、頭痛、吐き気、嘔吐、排尿障害、頻脈
 禁忌 :高血圧、緑内障、アデノ-マ他。

引用文献・ 参考文献

1)M.Harada et al.,J.Pharmacobiodyn.4, 691(1981)

2)Chen k.k. et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther., 24, 339(1925)
Rowe L.W. et al.,J.Am.Pharm.Assoc., 16, 912(1927)

3)秋葉 ら,日薬理誌, 75, 383(1979)

4)加瀬 ら,第16回和漢薬シンポジウム講演要旨集, 122(1982)

5)B.Angrist et al.,Psychopharmacology., 55, 115(1977)
M.R.Zarrrindast.,Br.J.Pharmacol., 74, 119(1981)

6)東海林 ら,応用薬理,10, 407(1975)
細谷ら,第16回和漢薬シンポジウム講演要旨集,296(1983)
M.Miyagoshi et al.,Planta Med., 52, 275(1986)

7)加瀬佳年,薬局,12, 151(1961)
H.Schmitt.et al.,Neuropharmacol13 ,289(1974)

8)松葉 ら.,Biochemical Society Transactions,24, 790 (1996)

9)渡辺 ら,応用薬理,22, 339(1981)

10)Y.Kasahara et al.,Planta Medica.,51, 325(1985)
菅原 ら.,炎症,6, 245(1986)

11)C.Konno et al.,Planta Medica.,51162(1985)
友田正司.,現代東洋医学,10, 85(1987)

12)藤井美和男.,満州医誌,4, 56 (1925)