ビルベリー

英名

Bilberry

学名

Vaccinium myrtillus L.

科目

ツツジ科

別名

ホワートルベリー(Whortle berry)、ブルーベリー(blue berry)

原産地

北ヨーロッパ

利用部位

果実

成分

■アントシアニン
 delphinidin-3-O-galactoside
 delphinidin-3-O-glucoside
 delphinidin-3-O-arabinoside
 cyanidin-3-O-galactoside
 cyanidin-3-O-glucoside
 cyanidin-3-O-arabinoside
 petunidin-3-O-galactoside
 petunidin-3-O-glucoside
 petunidin-3-O-arabinoside
 peonidin-3-O-galactoside
 peonidin-3-O-glucoside
 peonidin-3-O-arabinoside
 malvidin-3-O-galactoside
 malvidin-3-O-glucoside
 malvidin-3-O-arabinoside

図1 ビルベリー含有成分

5種のアントシアニジンをアグリコンとし、3位に3種の糖が結合した合計15種類のアントシアニン(アントシアニジン配糖体)を高含量含む(図2)。

図2 ビルベリー抽出物のHPLCクロマトグラム
(総アントシアニジンとして25%含有抽出物)

花言葉

『実りのある人生』『知性』『思いやり』

見ごろ

5~6月(開花)、8~9月(収穫)

 ビルベリーは高さ20~60cmの落葉性の低木で、夏に酸味のある黒紫色の果実をつける。野生種ローブッシュブルーベリーの一種で、主に北ヨーロッパに自生、あるいは栽培されているが、日本では栽培できない。日本で生食用に栽培されているブルーベリーであるラビットアイブルーベリー、ハイブッシュブルーベリー等に比べアントシアニンを多く含む。

~明るい視界と血管のためのハーブ~

 

 ビルベリーは北欧諸国では森林の下草として一般的な植物である。小粒の果実は内部まで濃い赤紫色で、色素成分であるアントシアニンを豊富に含む。人々は森に出かけてしゃがんでビルベリーを摘み、その場でつまんだり、持ち帰ってジャムやソースを作ったり、染料などに利用していた。
 ビルベリーの眼科領域での機能性に注目が集まったのは、第二次世界大戦中に英国空軍(RAF)のパイロットが出撃前にこのビルベリーのジャムを食べていくと、「暗がりでも敵機がよく見える」と証言したことがきっかけである。戦後、フランスやイタリアで、目を酷使する夜間労働者のドライバーやパイロットでその効果が試され、薬理効果の研究が進んだ。
 1970年代半ばにはイタリアでビルベリーの精製抽出物が眼科領域と循環機能改善の医薬品として認められており、以来何種類かの医薬品が販売されている。近年、日本国内や、アメリカでも健康食品や食品素材としてクローズアップされ、抗酸化作用や血管に対する作用などの新たな研究も進んでいる。

以下の項目は、その植物の期待される効果を示すものです。

生理活性機能

● 視覚サイクルの改善1)
 ものを見るということは、網膜内に存在する視覚物質ロドプシンが光の刺激によってオプシンとレチナールに分解され、この信号が脳に伝達されることにより起こる。オプシンとレチナールは再びロドプシンに合成され、このロドプシンの分解と合成の一連の流れを視覚サイクルと呼ぶが、ビルベリー抽出物はロドプシンの再合成を促進する作用があり、暗順応の促進、夜間視力の向上の効果が確認されている。

図3 ビルベリー抽出物のロドプシン再合成の促進作用

● 眼精疲労改善作用2)
 眼精疲労はパソコンや車の運転などで長時間眼を酷使することによって引き起こされ、眼部の不快感、眩暈、頭痛、肩こりなどの一連の症状を伴う。光照射によって眼精疲労状態にしたモデルマウスにおいて、ビルベリー抽出物の投与は網膜中のNK細胞減少とランゲルハンス細胞減少の抑制、並びに脳内のβ-エンドルフィンの減少を抑制することが確認されている。このことはビルベリー抽出物はストレスやアレルギーに対する抵抗力の低下を抑えることで眼精疲労を緩和することを示唆している。

 

● 抗炎症作用3)
 ビルベリー抽出物の経口投与は、クロロホルム刺激によるウサギ毛細血管の透過性の亢進を抑制することが報告されている。また同様にブラジキニン、ヒスタミンに誘導される毛細血管の透過性の亢進を抑制することも確認されている。(図4)。

図4 ビルベリー抽出物の毛細血管保護作用

● 毛細血管保護作用3)
 ビルベリー抽出物はウサギ皮膚において点状出血がおきるのに必要な圧力値を高め、毛細血管の抵抗性を高めることが報告されている。

● 血小板凝集作用4)
 ビルベリー抽出物はADP、コラーゲン、アラキドン酸、PAFにより誘導される血小板凝集を用量依存的に阻害することが報告されている。

● 血管拡張作用5)
 ビルベリー抽出物はラット大動脈において内皮依存性の血管弛緩を引き起こすことが報告されている。

● 抗腫瘍作用6), 7)
 ビルベリーはガン細胞を増殖させる性質を持った酵素の活性を抑制すること、またガン細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている。

● 抗酸化作用
 近年、活性酸素と疾病との関係が指摘されているが、ビルベリーは活性酸素除去作用が非常に強く、ビルベリーの生理機能の多くはこの抗酸化活性が関与しているのではないかといわれている。アントシアニンの抗酸化力はフラボノイド類の中でも比較的高い部類に入り、抗酸化力が強いとされる茶のカテキン類やタマネギのケルセチンと同程度である8)(図3)。また個々のアントシアニンを比較した場合、抗酸化力はB環水酸基の数に比例し、配糖体であるアントシアニンより糖がはずれたアントシアニジンの形のほうが活性が強い傾向にある。9), 10)

図5 各種フラボノイドの抗酸化活性
(C. A. Rice-Evans et al. 1996)

 以上の生理活性は摂取されたアントシアニンがどのように吸収され、移行し、代謝されるのかを解明した上で議論されるべきであるが、これまでの報告によると、15種全てのアントシアニンが配糖体のまま血中、腎臓及び肝臓に移行することが確認されており11,12)、アントシアニンの構造を維持したまま生理活性に寄与していることが示唆されている。

● 血糖改善作用、インスリン抵抗性改善作用
 普通食あるいはビルベリー果実抽出物(BEE)を含む食餌を2型糖尿病モデルマウス(KK-Ayマウス;遺伝的に糖尿病を発症するマウス)に5週間自由摂取させると、ビルベリー摂取群では、普通食群と比較して血糖値の有意な上昇抑制作用(図6)を示し、インスリンの感受性の上昇が認められた13)

図6(A)血清グルコース濃度、(B)インスリン耐性試験の結果

臨床試験

〇 夜間視覚に関する研究
 60人の正常な視覚を持つ被験者に対し、暗室での網膜の光に対する感受性とフリッカーテストによる臨界融合頻度を測定する二重盲検が行われた。この結果、1時間後よりビルベリー抽出投与群で暗闇での視覚の改善が見られた14)
 健常者及び糖尿病性網膜炎、動脈硬化性網膜症など病的眼底をもつ被験者に対し、網膜のロドプシンの合成を測定した。その結果、ビルベリー抽出物投与群では健常者と被験者双方でロドプシンの再合成促進が認められ、暗順応の改善効果が見られた15)

〇 糖尿病性網膜症・高血圧性網膜症の改善
 40人の糖尿病性または高血圧性網膜症の患者に対し、1ヶ月の二重盲検が行われた。検眼鏡、蛍光眼底造影法の結果、ビルベリー抽出物投与群で投与前に比べ症状の改善が見られた16)

〇 老人性白内障に対する効果
 50人の軽度老人性白内障患者に対し、ビルベリー抽出物+ビタミンEと偽薬を4ヶ月間投与する二重盲検を行った。その結果、ビルベリー抽出物+ビタミンE投与群では97%でレンズの濁りの進行を抑制しているのが認められた17)

〇 眼精疲労の改善
 眼精疲労を自覚する20名の患者を対象としてビルベリー抽出物(250 mg/日)または偽薬を28日間ずつ投与する二重盲検が行われた。その結果、「目の疲れ」「肩こり・腰のこり」をはじめとする眼精疲労の自覚症状評価とフリッカーテストによる客観的疲労度測定において、ビルベリー抽出物投与群で改善効果が認められた18)

〇 循環機能改善
 妊娠中の下肢循環不全19)、鼻血20)、痔21)、月経困難症22)についての臨床試験も試みられており、良好な結果が得られている。

〇 視覚機能の改善
 日常的に目の疲れを自覚し、ディスプレイ・キーボードなどのディスプレイ画像を利用したVDT作業を4時間以上従事している健常者をランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験にて評価した。評価項対象としてビルベリー抽出物を6週間160 mg/日摂取前後、プラセボ群リッカートスケール法を用いて眼精疲労関連症状の改善におけるビルベリー抽出物の有効性を検討し、 ビルベリー抽出物を6週間160 mg/日摂取後、眼精疲労(図7)、ピント調節機能、首と肩の凝りなど、VDT作業による眼精疲労関連症状の改善を示している23)

図7  VDT負荷前後 眼精疲労のスコア

安全性

北欧での長い食経験により、安全性は高いと考えられている。

引用文献・ 参考文献

1)Tronte P.et al.,C. R. Soc. Biol.161, 2473 (1967)

2)平本ら,疲労の科学, 201(2001)

3)Lietti A. et al.,Arzneim. Forsch. Drug Res.265, 829 (1976)

4)Bottechia D.,Fitoterapia,LVIII, 3 (1987)

5)竹原ら,食品工業, 41, 46 (1998)

6)Bomser J.et al.,Planta Medica., 62, 212 (1996)

7)Katsube N.,J. Agri. Food Chem.51 , 68 (2003)

8)Rice-Evans C. A. et al.,Biochemical Society Transactions,24, 790 (1996)

9)津志田藤二郎,食品工業 ,40, 34 (1997)

10)Morazzoni P. et al.,Pharmacol. Res. Comms.,20, suppl. 2, 254 (1998)

11)Morazzoni P. et al.,Arzneim-Forsch./Drug Res.,41,128 (1991)

12)一柳孝志.,第25回日本フリーラジカル学会 要旨集 (2003)

13)Takikawa M. et al., J. Nutr., 140: 527-533. (2010)

14)Jayle.et al.,Annali d’ Oculistique ,198, 556 (1965)

15)Urso.et al.,Ann. Ottalmol. Clin.Ocul.,93, 930 (1967)

16)Perossini M.,Ann. Ottalmol. Clin.Ocul.,113, 1173 (1987)

17)Bravetti G. O.,Ann. Ottalmol. Clin.Ocul.,115 109 (1989)

18)梶本ら,食品工業,41 29 (1998)

19)Teglio L. et al.,Quad. Clin. Ostet. Genecol.,42, 221 (1987)

20)Massenzo D. et al.,Riv. Ital. Otorinolaryngol. Audiol. Foniatr,12/1, 65 (1992)

21)Pazzangora V.,Gazz Med. Ital.,143, 405 (1984)

22)Colombo D. et al.,G. Ital. Ostet. G. Lineco.,7, 1033 (1985)

23)Nakata A . et al., Jpn Pharmacol Ther 45(9). 1523-1534 (2017)